心不全療養指導士試験、心臓リハビリテーション指導士試験で毎年出題される禁煙の療法指導。
問題数は多くないけど落としたくない問題です。
出題されるのはブリンクマン指数、TDS、5つのR、5Aアプローチあたりが多い印象です。
冠危険因子のひとつであり、様々な悪影響を及ぼす喫煙。
2006年4月から保険診療が開始された禁煙治療、全5回の診療を終えた患者が9ヵ月後禁煙継続できていた割合は47.2%と半数以下でした。
(ニコチン依存症管理料による禁煙治療の効果等に関する調査報告書より)
継続が難しい禁煙、入院をきっかけに是非禁煙の意思を固めてほしい。
禁煙ガイドラインでも入院中の行う禁煙指導の効果は高いとされています。
禁煙指導に必要な知識をわかりやすく解説し、具体的な会話例と一緒に療養指導のポイントが理解できます。
タバコの有害性と依存
吸っている煙:主流煙
火のついた先から出ている煙:副流煙
人が吐き出した煙:呼出煙
副流煙+呼出煙→環境中タバコ煙(ヒト発癌物質)
タバコに含まれる発癌物質は70種類以上
タバコには4000種類以上の化学物質が含まれます。
その中には70種類以上の発癌物質が含まれています。
具体的な有害物質例。
体の中に入れたくないものばかりです。
麻薬より強い依存性
ニコチンを摂取すると欲求が満たされたときに活性化する脳内報酬系に作用し、
特にノルアドレナリン、セロトニン、ドパミンなどの神経伝達物質が増えます。
またニコチンは吸収が良く、口腔内粘膜や皮膚からも吸収されるため吸い込んだ数秒以内に脳血管障壁を通過して脳細胞に達します。
つまりタバコを吸うことで即座に心地いい興奮状態となり、またその気分を味わいたいと喫煙を繰り返してしまいます。
喫煙を継続するとある時期以降は、ニコチンを吸収することでようやく以前と同レベルの活動を維持するようになります。
これが『ニコチン中毒』の正体です。
タバコのデメリット
喫煙によるデメリットとして有名なのが肺がんなど、発がん物質によりがんになりやすくなること。
がんだけではなく、循環器疾患や血管にも悪影響を及ぼします。
体に悪いとわかっていても具体的な説明は難しいデメリット。
その患者さんにより関りの深いデメリットを選んで説明できるように整理しましょう。
交感神経が優位になる
ニコチンが副腎皮質を刺激します。
するとカテコラミンが遊離し交感神経が優位になります。
血管収縮・気管支収縮
カテコラミンが分泌されることでトロンボキサンA2が遊離します。
トロンボキサンA2の働きで血管・気管支を収縮させ、血小板凝集能を向上させます。
つまり、血圧が上がり、気管支は細くなり、血はドロドロと固まりやすい状態になります。
慢性的な酸素欠乏
タバコ主流煙に含まれる一酸化炭素が酸素が結合するはずだったヘモグロビンと強固に結合し、慢性の酸素欠乏状態を引き起こします。
酸欠状態を改善させるため、体は赤血球を増やして代償します。
タバコを吸うことで血液はドロドロに。
動脈硬化の進行
ヘモグロビンと結合した一酸化炭素は善玉コレステロールを減少させて動脈硬化を助長します。
主流煙に含まれる化学物質により血管壁が傷つけられます。
傷ついた血管壁にコレステロールが付き、そこに血小板が付くことで動脈硬化が進行。
冠動脈攣縮
喫煙により血中の一酸化炭素が減ることで血管拡張機能が抑制されます。
血管がしなやかに拡張する血管内皮機能が障害され、冠攣縮を引き起こします。
デメリットから引き起こされる病気
心筋梗塞後に処方される内服薬の薬効をすべて無駄にするくらいの悪影響をタバコは持っています。
喫煙するといことは、再発を予防するために飲んでいる薬の薬効を台無しにする行為ということをしっかり伝えましょう。
禁煙のメリット
前述した影響を受けないだけでもかなりのメリットですが、具体的に言葉にするとより魅力的なメリットが沢山あります。
禁煙達成は難しい。
メリットを得た未来の自分の姿を想像してもらうことで、自己効力感が爆上がりするように関わりましょう。
禁煙の離脱症状
高い依存性を持つタバコ。
禁煙するときに耐えなければならないのが離脱症状です。
前もって離脱症状が出る可能性があることを知ってもらい、備えましょう。
禁煙のメリット<体調編>
- STEP120分後血圧・脈拍が低下
手の体温が正常まで上昇 - STEP28~12時間後血中の一酸化炭素濃度が正常化に
心臓発作を起こす確率が減少する - STEP32~3週間後咳・息切れが改善する
肺の機能が回復し感染症のリスクが減少する - STEP43~9ヵ月後冠動脈疾患リスクが喫煙者の半分に低下する
- STEP51年後脳卒中のリスクが非喫煙者と同等まで低下する
- STEP510年後肺がん死亡率が喫煙者の半分になる
口腔・咽頭・食道・膀胱・膵臓・子宮がんのリスクが減少する - STEP515年後冠動脈リスクが非喫煙者と同等まで減少する
禁煙のメリット<お金編>
- STEP12ヵ月後約2万6千円
欲しかった服が買える - STEP21年後約15万7千円
大型家電が買い換えられる - STEP35年後約79万円
家族旅行に行ける - STEP410年後約157万円
家のリフォームができる - STEP515年後約238万円
車の買い替えができる - STEP520年後約314万円
実感できる禁煙のメリット
禁煙外来
保険適応となる条件
ブリンクマン指数:1日の喫煙本数×喫煙年数
ニコチン依存症のスクリーニングテスト:TDS (Tabacco Dependence Screener)
Q1 | 自分が吸うつもりよりも、ずっとタバコを多く吸ってしまうことがありましたか |
Q2 | 禁煙や本数を減らそうと試みて、できなかったことがありますか |
Q3 | 禁煙や本数を減らしたとき、タバコが吸いたくてたまらなくなることがありましたか |
Q4 | 禁煙したり本数を減らそうとしたときにイライラ、神経質、落ち着かない、 集中しにくい、憂鬱、頭痛、胃のむかつき、脈が遅い、手の震え、食欲または体重増加がありましたか |
Q5 | Q4で伺った症状を消すために、またタバコを吸い始める |
Q6 | 重い病気にかかったとき、タバコは良くないとわかっているのに吸うことがありましたか |
Q7 | タバコのために自分の健康問題が起きているとわかっていても吸うことがありましたか |
Q8 | タバコのために自分に精神的な問題が起きているとわかっていても吸うことがありましたか |
Q9 | 自分はタバコに依存していると感じることがありましたか |
Q10 | タバコが吸えないような仕事の付き合いを続けることが何度かありましたか |
TDS5点以上でニコチン依存症と診断されます。
禁煙外来の期間と流れ
期間は12週間のうちに計5回受診します。
初回受診時に医師と患者さん本人が話し合い、禁煙開始日を決定します。
禁煙開始日から2週間後、4週間後、8週間後、12週間後の計4回受診をします。
費用は5回の診察代+処方を合わせるとおおよそ2万円程度です。(3割負担の場合)
禁煙指導のポイント
心不全療養指導士試験でも、心臓リハビリテーション指導士試験でも出題されるヤマは
5つのRと5Aアプローチ。
5つのRは禁煙への動機づけを強化する目的で使用します。
5Aアプローチは禁煙外来など実際の現場で短時間で使える禁煙の治療方法です。
5つのR
関連性 (Relevance) | 疾患、家族、ライフイベントなど個人的な問題と 関連付けながら情報提供を行う |
リスク (Risks) | 疾患の発症・進展の危険性をはっきりと示す |
報酬 (Rewards) | 健康、お金などの禁煙のメリットに気付かせる |
障害 (Roadblocks) | 禁煙の妨げとなる要因(経緯)をたずね、 それを解決するための方法について助言する |
反省 (Repetition) | 機会をとらえて動機づけのチャンスを繰り返す |
5つのR使用例:関連性(患者さんの状況に関連付けて情報提供する)
まだ小さいお子さんの為にも禁煙に挑戦してみてはどうですか?
5つのR使用例:リスク(危険性をはっきりと示す)
喫煙しているとインスリンが効きづらくなってしまいます。
喫煙していると血圧を下げる薬の効果が半減してしまいます。
タバコのリスクは癌だけでなく、動脈硬化が進むことで心筋梗塞やもう梗塞になりやすくなります。
5つのR使用例:報酬(メリットに気付かせる)
1日1箱の喫煙をやめると1か月で1万3千円の節約になります。
散歩や階段でも楽に呼吸ができるようになりますよ。
禁煙は脳卒中や心筋梗塞のリスクが減るだけではなく、糖尿病にも効果的ですよ。
5つのR使用例:障害(禁煙の妨げになる要因の解決方法を考える)
体重増加のデメリットより禁煙のメリットの方が大きいですよ。体重管理は禁煙が成功してからで大丈夫です。
ニコチン切れによる離脱症状が現れますが、しばらくするとおさまります。少しの間頑張りましょう。
5つのR使用例:反省(動機づけのチャンスを繰り返す)
禁煙したら体が喫煙前に戻るわけではありませんが、いつから禁煙を初めても禁煙直後から効果は現れ始めます。
普通禁煙は2~3回の失敗を繰り返します。
失敗の数だけ学びも多く、失敗経験が多い人ほど禁煙達成のゴールは近いと思って良いです。
5Aアプローチ
Step1:ASK | すべて患者さんに禁煙の有無を聞く |
STEP2:Adovice | すべての患者さんにやめるよう強く個別的に忠告する |
Step3:Assess | 30日以内に禁煙の意思があるか確認し関心度を評価 禁煙の意思あり→Step4へ 禁煙の意思なし→[5つのR]を参考に動機づけを行う 禁煙中→再喫煙防止のための支援 禁煙してよかったことについて具体的に話し合う 禁煙開始後の個別の問題(支援不足、体重増加、うつ状態、強い禁断症状など) |
Step4:Assist | 患者の禁煙を支援する 患者本人が禁煙を計画するのを支援する 禁煙外来の提案・家族や同僚のサポート 医療者がいつでも支援することを表明 |
Step5:Arange | フォローアップの診療の予定を決める(できれば1週間以内) 禁煙成功を祝いもし再喫煙があれば実際に生じた問題や今後予想される問題を予測する |
臨床での禁煙の進め方
- STEP1禁煙への意思を固める禁煙する意思があるかを確認し、決意表明をしてもらいましょう
「禁煙します!」と声に出して言うことは禁煙への行動変容の第1歩となります。 - STEP2セルフモニタリング導入血圧手帳などの導入が済んでいる患者さんであれば、喫煙本数を新たな項目として追加しましょう。
- STEP3問題行動(喫煙)と向き合うセルフモニタリングに節煙本数を記載することで行動変容(禁煙)へと繋がります。
医療者と問題行動の共有ができます。
タバコが吸いたくなるきっかけと対処法
お酒の席
飲み会に参加しない。
参加せざるおえないときは、禁煙中であることをカミングアウトしましょう。
座席は喫煙者から離れたところを選ぶと良いです。
飲み過ぎると「どうでもいいや」という気持ちになりせっかくの禁煙が失敗してしまう為、
飲み過ぎないよう間にノンアルコールを挟むなどの工夫をしましょう。
コーヒーや食後
今まで喫煙していたタイミングや環境に遭遇すると吸いたくなります。
過ごす場所を変える、食後はすぐに洗い物をするなど行動や場所を変えると効果的です。
タバコやライターなどの喫煙具が見えたとき
タバコに関連するもの(タバコ、ライター、マッチ、灰皿、タスポなど)は処分できると良いです。
喫煙者やタバコの変える場所が見えたとき
喫煙者や喫煙所、自動販売機などには近づかないようにしましょう。
禁煙中であることを周囲の人々に伝え、協力してもらうと良いです。
喫煙の代替え行動
試験に出題されやすい箇所のまとめ
5つのRと5Aアプローチはそれぞれの具体的な内容と声掛け例を覚えておくと良いです。
自分のやりたい仕事ができないと感じたら、とりあえず転職サイトに登録して情報収集しながら働くのがおススメ!
他の職場を探すことで自分の職場のいいところが見えたり、逆に自分にぴったりの職場が見つかるかもしれません