循環器病棟で遭遇率が一番多いと言っても過言ではない減塩指導。
ということは減塩指導をマスターすれば臨床で役立つこと間違えなし✨
食事指導全般をするのは難しそうだけど減塩に絞ればできそう。
ところが、減塩の目標値はハードルが高いんです。
1日6gの減塩に必要な行動変容に繋がる具体的な指導方法を簡単に解説します。
明日からの減塩指導に役立つこと間違えなしです。
- 塩分過多は循環血液量を増やし血圧を上げる
- 日本食は塩分が多い
- 減塩指導の実際
- 塩分チェックシート:どんなもので塩分を取りがちかがわかる
- 塩分チェックシート:チェック時の説明方法
- 塩分チェックシート:点数の高い項目に沿って減塩のコツを説明
- Q1:味噌汁やスープを食べる頻度はどのくらいですか?
- Q2:漬物、梅干しなどを食べる頻度はどのくらいですか?
- Q3 :あじの開き、みりん干し、塩鮭などを食べる頻度はどのくらいですか?
- Q4:うどん、ラーメンなどの麺類を食べる頻度はどのくらいですか?
- Q5:醤油やソースをかける頻度はどのくらいですか?
- Q6:家庭の味付けは外食を比べて濃いですか?
- Q7:食事の量は多いと思いますか?
- Q8:麺類の汁を飲みますか?
- Q9:昼食で外食やコンビニ弁当などを利用する頻度はどのくらいですか?
- Q10:夕食で外食やお惣菜などを利用する頻度はどのくらいですか?
- Q11:ちくわ、かまぼこなどの練り製品を食べる頻度はどのくらいですか?
- Q12:ハムやソーセージを食べる頻度はどのくらいですか?
- Q13:せんべいやおかき、ポテトチップスなどを食べる頻度はどのくらいですか?
- 前日の塩分摂取量がわかる尿検査:塩分摂取推定量検査
- フレイルと減塩
- ゴールは『減塩』ではなく『心不全増悪予防』
- まとめ
塩分過多は循環血液量を増やし血圧を上げる
なぜ減塩が必要なのか。
それを理解していないと医療スタッフも患者さんも減塩が辛いことばかりになってしまう可能性があります。
まずは塩分6g/日がゴールではないということをしっかり押さえましょう。
ゴールは塩分6g/日ではなく
循環血液量の増加と血圧上昇がないこと
日本食は塩分が多い
日本食は他の国の食事に比べて塩分が多い傾向にあります。
日本人の平均の塩分摂取量(10g程度)であり、意識せずに食事をしていれば塩分過多になっている可能性が高いです。
特に汁ものやごはんに合うおかずおかず、お酒に合うおかずはしょっぱいものが多いです。
減塩指導の実際
塩分チェックシートを使った減塩の指導方法について説明します。
塩分チェックシート:どんなもので塩分を取りがちかがわかる
このシートは患者さん自身にチェックしてもらい、合計点数から塩分が多い傾向かがわかるチェックシートです。
『食事量』の項目は患者さんの主観で判断されるため、実際と差が出てしまうこともあります。
心臓リハビリや療養指導の現場で実際に5年以上このチェックシートを使っていますが、点数の高さと塩分摂取量の検査結果は相関していることが多いです。
合計点よりも重宝しているのが、どんな食品で塩分過多になっているかがわかることです。
問題行動となっている食事に当たりを付けられることで、的を絞った行動変容の提案ができます。
塩分チェックシート:チェック時の説明方法
塩分チェックシートを行うときに大した説明もせずに『チェックを付けてください』と始てしまうと、お宝情報を聞けるチャンスをみすみす逃してしまいます。
高血圧や心臓病などの循環器疾患の既往があっても減塩が必要であることを知っているかどうかは、患者さんによって差が出ます。
塩分チェックシートを始める前に患者さんの思いや取り組んでいた内容を聞くことで、そのあとの減塩指導が格段にやりやすくなります。
- STEP1減塩しましょうと言われたことがありますか?
- STEP2STEP1の返答に合わせて減塩への知識や行動を聴取YES
- 誰に言われたか
- 実際に取り組んでいるか
- なぜ減塩が必要だと思うか
- 病院食との違いはどうか
NO- 味付けの好み
- 入院食からの気付き
- 減塩への思い
- 塩分過多の影響を説明
- STEP3塩分過多のデメリットと減塩の必要性をさらりと説明
知りえた情報から減塩を意識している患者さんは説明なしでOK。
- STEP4実際の説明例先輩看護師
どんなものでどのくらい塩分を取っていたかが分かる
塩分の自己チェックシートです。
入院する前2週間程度の食事内容を思い出してください。
頻度や量が問われる問題ですのでご自身の食事に
一番近いなと思う選択肢の点数を
右側の緑の□に記入してください。
塩分チェックシート:点数の高い項目に沿って減塩のコツを説明
チェックシートを付け終わったら合計点からの評価を伝えましょう。
塩分摂取量の目標値(6g/日)と1食あたりの目安(2g/1食)を共有認識としておさらいします。
13個の質問すべての改善策を説明するとボリュームが多くなってしまい、患者さんの記憶に何も残りません。
点数の高かった項目にポイントを絞って説明するのがおススメです。
設問ごとに点数が高かった場合の減塩のコツや指導ポイントにについて説明します。
Q1:味噌汁やスープを食べる頻度はどのくらいですか?
味噌汁だけをカウントする患者さんがいるため、汁物が全て含まれているか確認しましょう。
味噌汁1杯=塩分2g程度と実際の塩分量を数字で伝えるとインパクトが大きく響きます。
味噌汁の量を減らすよりは回数を減らす方が減塩の効果は大きいです。
唾液が少ない、呑み込みが悪くて汁物が必要などの理由で味噌汁を飲んでいる方にはお吸い物やお茶に変更できないか提案します。
調味料を減塩に変えてしまうと1番簡単です。
減塩みそに変更することで40%程度の塩分をカットできます。
Q2:漬物、梅干しなどを食べる頻度はどのくらいですか?
キムチや佃煮、自家製ぬか漬けなども漬物としてカウントされているか注意しましょう。
梅干し1個=塩分2g程度、きゅうりの浅漬けやたくあん5切れ程度=塩分1g前後と実際の塩分量を伝えましょう。
汁物同様、量よりも頻度を減らす方が減塩効果が大きいです。
自家製の場合は漬かりすぎないうちに食べることと、多めに作らないように注意しましょう。
定食やお弁当などに入っている漬物は残すよう提案します。
Q3 :あじの開き、みりん干し、塩鮭などを食べる頻度はどのくらいですか?
生の魚でないものがすべて含まれているか確認しましょう。
汁物同様、実際の塩分量を伝えます。
塩鮭1切れ=塩分1g前後
回数を減らせるように提案すると減塩効果が大きいです。
焼き魚+味噌汁は和食の定番ですが塩分が多いおかずが2品で塩分過多確定です。
塩分の多いおかずが複数にならないよう注意しましょう。
弁当などの総菜でも多く見かけるため選ぶときに注意が必要です。
調理が可能であれば生魚を取り入れられると良いです。
Q4:うどん、ラーメンなどの麺類を食べる頻度はどのくらいですか?
焼きそばやパスタなど汁がなければ麺類としてカウントしない方がいますので麺がすべて数に入っているか確認しましょう。
汁物同様に実際の塩分量を数字で伝えます。
他の食事と比べても麺類の塩分量はかなり多めのため、回数を減らすと大幅な減塩が期待できます。
汁を残すと約半分量の塩分がカットできます。
うどんやそばであれば無塩の麺が売っています。
行動変容としてつゆを薄くする、汁を飲まない、回数を減らすなどの提案をしましょう。
夏はそうめん、冬は煮込みうどんや鍋物のしめにうどんなど、季節によって頻度が増えることがあるので患者さんから詳しく情報を収集しましょう。
Q5:醤油やソースをかける頻度はどのくらいですか?
ケチャップやマヨネーズ、ドレッシングなどがすべて含まれているか確認しましょう。
調味料は『減塩』のものに変えてしまうのが1番簡単です。
『減塩』の調味料で半分弱の塩分カットが期待できます。
ポン酢と減塩醤油はだいたい同じくらいの塩分量です。
サラダや刺身などに直接醤油やドレッシングをかけてしまうと調味料の摂取量が増えるため、小皿に出してつけて食べるようにしましょう。
レモン汁やお酢は塩分が入っていないため代替えとして活用すると良いです。
シソ、ゴマ、ネギ、ショウガ、七味などの薬味を多めに使用することで塩味が少なくても満足できます。
Q6:家庭の味付けは外食を比べて濃いですか?
減塩指導をしていて、家庭の味付けを減塩の味付けに変えることが最も難しいと感じています。
煮物など主に和食の味付けの場合甘未の量を少なくすることで後から入れる醤油や味噌を減らすことができます。
煮物などの調理方法は味が食材の中まで染み込むため炒め物や炒め煮に調理法を変えて表面だけに味が付く調理をおすすめします。
いくつかあるおかずの味付けにメリハリをつけると良いです。
すべてのおかずを薄味にするとどれも美味しくないとなってしまい、食事の楽しみがなくなってししまいます。
どれか1つにだけ好みの味付けをして、それ以外は味をつけずに食べられるおかずにするとおいしく食べられます。
調味料など計って調理することが難しいときは減塩の配食サービスを提案しましょう。
Q7:食事の量は多いと思いますか?
同年代の方と比較して多いかどうかを問う質問です。
昔の自分と比べて判断していないか注意しましょう。
いくら薄味にしていても食べる量が多ければ塩分量も増えます。
おかずの品数が多いと減塩が難しくなるので、料理好きの患者さんは特に注意しましょう。
食事が終わってから満腹を感じるまでにタイムラグがあるため、早食いの方は食事量が多くなりやすい傾向にあります。
食事量が多い患者さんは食事にかけている時間や咀嚼回数に着眼し指導しましょう。
Q8:麺類の汁を飲みますか?
麺類の回数が多い患者さんに汁を残すよう指導すると減塩の効果が期待できます。
質問の順序は離れていますが、Q4の項目と合わせて解説できるとわかりやすいです。
Q9:昼食で外食やコンビニ弁当などを利用する頻度はどのくらいですか?
Q9は昼食、Q10は夕食の自炊以外の外食についての質問の為、Q10と合わせて次項で説明します。
Q10:夕食で外食やお惣菜などを利用する頻度はどのくらいですか?
Q9とQ10は外食など自炊以外の食事に関する質問です。
回数を減らせると良いのですが生活や仕事に関わってくるため、ほとんどの患者さんが回数を減らすことができません。
そのため指導としては『選ぶ』と『残す』です。
最近は栄養素の表示部分に食塩相当量の表示がされている場合が多いため表示を参考に選びましょう。
塩分相当量の表示がなくナトリウム表示の場合は計算して塩分量を求める必要があります。
ナトリウム(㎎)×2.54÷1000=塩分相当量(g)
[ナトリウム(g)×2.54=塩分相当量]
Q11:ちくわ、かまぼこなどの練り製品を食べる頻度はどのくらいですか?
汁物と同様に実際の塩分量を伝えましょう
湯通しして食べていた患者さんの塩分摂取推定量はかなり少なかったため、湯通しは効果が期待できます。
寒い季節いなると食べたくなる『おでん』はつゆの塩分が染み込んでしまう+具(練り製品)そのものの塩分量が多いため要注意です。
さつま揚げやカニカマは減塩の商品がスーパーで簡単に手に入ります。
代替品としてサラダチキンは1袋塩分1g程度の為ちくわやかまぼこに比べると塩分量が少ないです。
Q12:ハムやソーセージを食べる頻度はどのくらいですか?
汁物と同様に実際の塩分量を伝えましょう
朝食に食べることが多い加工肉、プロセスチーズと一緒に食べる方がいます。
プロセスチーズやスライスチーズの塩分量は1個=0.5g程度です。
ピザ用チーズはトースト1枚分(約30g)=塩分0.5g程度です。
加工肉だけでなく一緒に食べている食品も合わせて情報収集しましょう。
Q13:せんべいやおかき、ポテトチップスなどを食べる頻度はどのくらいですか?
おやつは食事ではないため、Q13の点数が高い場合は優先して間食を減らすことをおすすめします。
食事に少しでも好みの味付けができるように、間食での塩分摂取はやめましょう。
前日の塩分摂取量がわかる尿検査:塩分摂取推定量検査
随時尿で検査日時前24時間のおおよその塩分摂取量が分かる検査です。
やや正確性には欠けますが目安として活用できます。
月に1回など継続的に検査することで前回より減塩ができているかどうかの評価になります。
上記の項目を計算式に当てはめると塩分摂取推定量が分かります。
ナトリウム利尿の利尿剤(ループ利尿薬やカリウム保持性利尿薬など)を内服している場合は、実際よりも塩分摂取推定量が多い結果となるため注意
減塩への行動変容がうまくいっていない場合抜き打ち検査として行うこともありますが、多くは予告をして検査をしています。
前日の食事内容と塩分摂取推定量の検査結果を照らし合わせて、どの食品が塩分過多の原因となっているかを患者さんと一緒に振り返ります。
7年以上この検査を実施して療養指導をしていますが、6g以下の結果となる患者さんは全体の1割以下です。
検査結果だけを見てに一喜一憂するのではなく、家庭血圧や体重、むくみなどの症状も減塩行動を評価する材料として含め総合的に判断しましょう。
フレイルと減塩
加齢に伴う予備能力の低下のため、ストレスに対する回復力が低下した状態
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12401000-Hokenkyoku-Soumuka/0000205009.pdf
高齢で見るからにガリガリの患者さん、十分な食事量を食べることが難しい方に減塩指導がどの程度必要か悩む場面は多いです。
ゴールは『減塩』ではなく『心不全増悪予防』
減塩指導をしているといつしか塩分を6g/日にすることが『ゴール』とはきちがえてしまうことがあります。
塩分が6gより多いことが問題ではありません。
循環血液量の増加や血圧上昇から心不全が増悪することが問題です。
減塩の評価をするときは塩分摂取量だけで判断せず、家庭血圧や体重、心不全症状などから塩分過多の悪影響を受けていないかで判断しましょう。