どの科で働いていても遭遇する糖尿病。
2016年の国民栄養・健康調査では『糖尿病が強く疑われる者』は1000万人を越えました。
『糖尿病の可能性を否定できない者』と合わせると2000万人を越えます。
糖尿病と言えば食事療法…からの食事指導。
一言に食事指導と言っても範囲は広いし、患者さんの個別性が大きく出るため一筋縄ではいきません。
遭遇確率の高い糖尿病患者さん。
食事指導のスキルが上がればどこでで働いていても使えること間違えなし。
Ⅱ型糖尿病についての概要と血糖コントロールに必要な情報と食事指導のポイントに絞って簡単に解説しました。
食事指導の苦手意識の克服や、療養指導のヒントになれば幸いです。
糖尿病の特徴
『糖尿病が強く疑われる者』『糖尿病の可能性を否定できない者』合わせて2000万人中
Ⅱ型糖尿病の占める割合は90%。
糖尿病のほとんどの患者さんが2型糖尿病です。
2型糖尿病の特徴について説明します。
2型糖尿病になりやすい人の特徴
遺伝的な素因にプラスして
これらが当てはまる人はⅡ型糖尿病になりやすいと言われています。
なかでもⅡ型糖尿病に多いのは肥満、もしくは肥満歴がある人です。
糖尿病の悪循環
糖尿病になる、もしくは糖尿病が増悪する悪循環があります。
引き金は過食、食べ過ぎです。
食べ過ぎることで血糖値が高い時間が持続します。
するとインスリンの分泌量が低下するだけでなく、抵抗性つまりインスリンの効きが悪くなります。
インスリンの効果が不十分のため血糖が下がらず血糖値が高くなる→インスリンの分泌は低下する。
これが糖尿病の悪循環=ブドウ糖毒性です。
糖尿病の慢性合併症
糖尿病細小血管症
糖尿病性網膜症
網膜が障害を受けて視力が低下します。
病院勤務だと目が見えにくいために眼科に受診したら糖尿病だったという患者さんに多く出会います。
病期は単純・増殖前・増殖の3期に分類され、単純期までは血糖コントロールと高血圧治療が中心になります。
増殖前期以降は急激に血糖を下げると増悪することがあるため、緩徐に血糖コントロールをします。
糖尿病性腎症
職場で出会う透析患者さんのほとんどは糖尿病を患っていると思います。
透析開始の原因の1位は糖尿病腎症
年間に1万6,072人(43.7%)が糖尿病腎症が原因で透析を開始
https://dm-net.co.jp/calendar/2017/026532.php
糖尿病性腎症はアルブミン尿の量とGFR値から第1期~第5期に分類されます。
透析の導入を遅らせるためにも血糖・血圧コントロールが必要です。
糖尿病性神経障害
糖尿病の神経障害で多くの看護師さんがイメージするのは感覚・運動神経障害だと思います。
感覚・運動神経障害の中でも最も高頻度なのは末梢神経の多発神経障害です。
糖尿病性足病変の患者さんに多くみられる、足先がしびれる、感覚が鈍い、温度を感じづらいなどの症状です。
知覚神経の鈍麻から痛みを感じづらくなるので、傷や火傷に気づきづらくなります。
傷から感染し壊疽に発展することも多いです。
糖尿病大血管症
脳卒中
症状なく多発している場合が多いため、たまたまとったCTやMRIで多発性の脳梗塞が発見されることが多いです。
頸動脈狭窄の早期発見のため、定期的に頸動脈エコーなどがされることもあります。
虚血性心疾患
無症候性心筋虚血の患者さんが20~50%と多いです。
実際に臨床にいても胸痛発作を感じることなく心筋梗塞を起こしている糖尿病患者さんにかなり多く遭遇します。
糖尿病患者さんの冠動脈病変は複数枝、複数個所の場合が多く再発しやすいです。
再梗塞予防のためにも血糖コントロールがかなり重要になります。
末梢動脈疾患
下肢の血管の動脈硬化が進み、下肢冷感やしびれ、間欠性跛行が出現します。
間欠性跛行とは、一定の距離を歩くと足が重怠くなったり、痛みがでることを言います。
進行すると皮膚潰瘍・壊死となり足を切断することになる患者さんもいます。
検査結果の目標値
血糖値とHbA1cの目標値
細小血管症の発症・進展を予防する観点からHbA1c7.0未満を目標とする患者さんが最も多いです。
血糖値だと空腹時血糖で130mg/dl未満、食後2時間血糖値180mg/dl未満が目安となります。
しかし患者さんの年齢や低血糖の危険性、社会状況などの背景も考慮して目標が決められるため、どのあたりを目標にしているかは主治医に確認しましょう。
体重・血圧・脂質の目標値
2022年の動脈硬化ガイドラインの新たな変更点として、末梢動脈疾患、細小血管症合併症、喫煙をしている患者さんはLDLコレステロール100以下を目標とするか考慮をとされています。
jas_gl2022_220808.pdf (j-athero.org)
栄養素別血糖の上がり方
血糖上昇のイメージ
3大栄養素である炭水化物、脂質、タンパク質は食べた後の血糖上昇スピードが違います。
炭水化物=糖質+食物繊維のことですが
糖質は摂取後ビュンと急激に血糖が上昇します。
そのため特に食後の血糖値は食事に含まれる糖質量に強く影響され、糖質が多いほど血糖値が急峻に上昇します。
糖質の多い食事の血糖上昇のイメージ
糖質が良くないというのは糖尿病やダイエットをしている人であれば1度は聞いたことがあると思います。
糖質をだらだらとると血糖がどう推移するかというイメージです。
このように高血糖の時間が長く続きます。
すると序盤で出てきた糖尿病の悪循環、ブドウ糖毒性が出来上がります。
高血糖の時間が長くなるとHbA1cの値が悪くなります。
だらだらと間食することは糖尿病の増悪や合併症発症に繋がるとても危険な習慣です。
高血糖を予防する食事療法のポイント
療養指導のゴール
食事療法に終わりはありません。
糖尿病は完治する病気ではないため採血結果が良くなったからと言って、明日から好きに食事しても大丈夫という日は訪れません」。
ということは食事療法を「頑張って」やっている状態では生涯の継続が難しい。
習慣として獲得し、やるのが当たり前の日々になることが血糖コントロールを増悪させない食事療法のゴールです。
では高血糖時間が持続してしまう可能性がある食行動や食習慣はどのようなものがあるでしょう。
具体的な問題行動に沿って、療養指導のポイントを説明します。
問題行動=「間食が多い」患者さんの療養指導
間食なんてしないよ。毎日眠気覚ましに甘い缶コーヒー飲みながら仕事してるよ。
果物は体に良いってよく聞くから、毎日寝る前に食べるようにしてるの。それも間食に入るの?
自分に間食の習慣があると気付いていない患者さんが多くいます。
実際に患者さんからの聞き取りで言われたことのある間食理由は以下のようなものがあります。
例のような患者さんに「間食の経験はありますか?」と聞いても高確率「ありません。」という返事が返ってきます。
まずは3食以外でカロリー摂取しているタイミングや内容をもれなく聴取しましょう。
情報収集が終わり問題行動が患者さんと共有できたら、その問題行動がもたらす悪影響についてわかりやすく説明します。
血糖の上昇イメージを3食の場合と、間食をする場合で実際にグラフを紙に記載しながら説明するととても分かりやすいです。
次に間食理由を明確にします。
間食している患者さんのほとんどは、間食しないほうが良いということをわかっています。
その思いを共感し、間食が必要な理由か、そうでないかを患者さんと一緒に検討します。
セルフモニタリングを活用します。
ここでは間食を減らすような提案はしません。
ありのままを書いてきてもらうように指導します。
記載できたら賞賛しましょう。
ほとんどの患者さんはセルフモニタリングが導入できただけで間食回数や量が自然に減ります。
それでも間食が減っていかない患者さんは
目標の設定をします。
患者さんお自己効力感(モチベーション)に合わせて相談しながら達成できそうな目標を立てます。
行動を変えること、習慣にすることはかなり難しいため現在できていることをしっかり患者さんにフィードバックできるように心がけると療養指導を行うスタッフの負担も減ります。
問題行動=「食事内容が偏っている」患者さんの療養指導
一人暮らしだし、昼は毎日簡単に麺ですましているよ。おかずは作らない。
料理なんかしたことないよ。家に炊飯器もないから朝はパン、昼はカップ麺とかだね。
炭水化物(糖質)が多い食事になってしまう為に血糖コントロールが不良になっている場合があります。
炭水化物だけの食事になりやすい患者さんは一人暮らしや調理が苦手な方に多いです。
問題行動がもたらす悪影響について具体的にお話しします。
糖質が多い食事は食後高血糖となり血糖コントロールが悪くなりがちです。
目標・行動変容を提案。
患者さんが無理なくできそうな目標を一緒に相談しましょう。
目標例のようにタンパク質や野菜を増やせるような提案をしましょう。
食行動の目標を提案。
野菜から食べると血糖の上昇が穏やかになります。
食物繊維は脂質の改善効果もあります。
調理ができないなど、やれることが限られる場合が多いです。
宅配食の活用なども検討できると良いです。
問題行動=「食事量が多い・食事時間がバラつく」患者さんの療養指導
仕事が忙しくて、食事の時間はいつもバラバラ。朝は食べないことが多いよ。
夜勤中は忙しいと休憩できない時もあるね。夜勤明けの日はドカ食いになることが多いな。
食事量や食事時間が問題行動になっている患者さんは、働き盛りの世代やシフトや夜勤のある仕事、予定がないため昼夜逆転の生活になっている方に多いです。
問題行動がもたらす悪影響について具体的にお話しします。
欠食は次の食事量が増える引き金や食事間隔が空くことでの低血糖発作の原因となる場合があります。
食事時間が一定でないために血糖コントロールが悪くなる患者さんが多くいます。
目標・行動変容の提案。
あらかじめ食事が遅くなるなど予定が分かっているときは、先に軽食をとるなどの対応ができるように提案します。
睡眠と食事時間を固定するのが1番効果的です、仕事の状況などから難しい場合が多いです。
『昼食は12時~2時まで』と少し余裕を持たせたり、『21時までには夕食を済ませる』と締め切り時間を決めるなど、患者さんと相談しながら無理のない目標を立てられるよう意識しましょう。
低血糖と食事療法
正常値になるべく近づけるような厳格な血糖コントロールが良いわけではありません。
低血糖発作は交感神経を優位にさせ、心疾患のリスクを上げてしまいます。
合併症を起こさずに低血糖発作も起きない血糖コントロールを目指しましょう。
低血糖を起こしやすい状況や薬
低血糖予防の療養指導ポイント
低血糖についての認識や知識、行っている対策について確認します。
低血糖の対策について情報が引き出せたら、実際に対応するために必要な情報や行動を伝えます。
実際に低血糖を起こしたことがあるかないかは予防していく上で重要です。
症状を自覚したことがない患者さんにはわかりやすい症状の説明と、血糖測定器を持っている場合は少しでも怪しいと思ってときに血糖測定するよう説明します。
使用している薬剤によっては低血糖発作時の対応が少し変わる場合があります。
→α‐グルフォシターゼの服患者さんが低血糖を起こした場合、砂糖(ショ糖)では血糖の回復が遅いため、ブドウ糖を内服。
患者さんの生活や使用している薬剤に合わせて低血糖予防策の提案をしましょう。