退院が近づき元気になってくると患者さんが気にするのはこれからの生活のこと。
退院したらアルコールは飲んでもいいのかなぁ。
『ダメ』と言われそうな習慣は特に気になりますし、よくこっそり質問されます。
一部の病気を除き、アルコールは適量であれば飲んでもOK。
『飲んでもいいんだー』『これしか飲めないなら飲まないほうがいい』『こんなんじゃ飲んだうちに入らないよ』など患者さんによって、適量への思いも様々です。
そのためアルコール指導も患者さんに合わせた関りが必要になります。
達成が難しい嗜好品の療養指導。
一人でも多くの患者さんが目標を達成できるようにアルコールのメリット、デメリットから節酒達成に近づく指導方法までわかりやすくまとめました。
療養指導に携わる看護師さんのモヤモヤやしんどさが解消されますように。
アルコールの適量
学会やガイドラインにより多少適量に差がありますが、だいたい純アルコールで20~30㎎が適量とされています。
糖尿病で食事療法中はアルコール1~2単位まで
糖尿病患者さんの場合、主治医の許可のもと指示エネルギーの10%以内とされています。
1日1600Kcalの指示エネルギーなら160Kcal=2単位程度となります。
ただし食品交換表の中にアルコールはないため、他の食品と交換できません。
表1(炭水化物)を控えてその分アルコール量を増やすなどはできないことを前もって患者さんに説明しましょう。
禁酒が必要な病気
アルコール性心筋症
長期かつ多量の飲酒をすることで発生する中毒性心筋症のひとつです。
一般的には1日80~90gの純エタノール(日本酒4~5合程度)を5年以上摂取していると発症するとされています。(心不全療養指導ハンドブックより)
初期には拡張障害、左室肥大を生じ、進行すると拡張型心筋症同様の病態を呈します。
治療は禁酒が基本となり、少量の飲酒でも増悪します。
アルコール性心筋症が疑われる場合は禁酒してもらい、心機能の改善があるか確認します。
アルコール性肝疾患
長期(通常は5年以上)に渡りお酒を飲んでいることが原因で肝臓が傷んでしまっている状態です。
繰り返し肝臓を傷めることで肝硬変となり、もとに戻らなくなります。
健康診断で肝機能障害を指摘されていないか確認しましょう。
肥満の患者さんはすでに肝臓に負担がかかっている為より注意が必要です。
基本の治療は禁酒です。
アルコールのデメリットと節酒のメリット
アルコールは循環動態に影響を及ぼすだけでなく、脂質や睡眠など様々なところに作用します。
また飲酒中の食事内容が体に悪影響を与えていることも多いです。
節酒することでアルコールの悪影響+飲酒時の食事の悪影響がなくなり、様々なメリットが期待できます。
循環動態に及ぼす影響
冠動脈疾患の危険因子が増悪する
脂質
アルコールの過剰摂取で中性脂肪とHDLコレステロールを上昇します。
お酒を飲んでいるときはの揚げ物など油が多い食事や締めにラーメンを食べるなど、脂質が多くななりがちです。
HDLコレステロール上昇のメリットはあれど、デメリットの方が大きくなってしまいます。
多量のアルコール+飲酒時の食事が脂質のコントロールを増悪させている場合が多いです。
塩分摂取量
お酒を飲んでいるときはしょっぱいものをより美味しく感じます。
居酒屋さんのメニューは味付けの濃いものが多いです。
しょっぱいつまみでのどが渇きお酒も進む、塩分過多→多飲の無限ループに突入します。
塩分が増えると循環血液量が増え血圧が上昇します。
療養指導をしていると血圧手帳を見ただけで、深酒をした日が分かるくらい翌朝の血圧が顕著に上がっている患者さんはとても多いです。
血糖コントロール
療養指導をしてきた患者さんの中で、禁酒の効果でインスリン治療をやめることができた方もいらっしゃいました。
睡眠、早朝高血圧
飲酒は寝付くまでの時間を短縮させます。
そのため睡眠薬代わりに飲酒をする患者さんがいます。
そういった患者さんは眠るために徐々に飲酒量が増える方が多いです。
アルコールで寝つきは良くなっても睡眠時間の後半を障害されることで中途覚醒が増えたり、早朝覚醒となり睡眠の質は悪化します。
通常であれば睡眠中は副交感神経が優位となり血圧は低くなります。
睡眠の質が悪いと交感神経が活発となり夜間の血圧が下がりません。
夜の血圧が下がっていないのに朝になると活動に備えて体内から血圧を上げる作用のあるホルモンが分泌され、早朝高血圧となります。
アルコールで入眠するより内服を調整して入眠できるようにした方がよい場合が多いです。
不眠で飲酒している患者さんと出会ったら主治医と連携をとり内服調整を検討してもらいましょう。
食事量
飲み会の席だと普段の食事にかける時間よりも時間が大幅に長くなりがちです。
つまんでいる程度と思っていても、時間が長くなるほど飲酒量だけでなく食事摂取量は増えます。
食事内容を気を付けていたとしても、全体の食事量が増えれば摂取カロリー量は増え肥満に。
ダイエットしていなくても飲み会の頻度が減っただけで痩せる患者さんは多いです。
高尿酸血症・痛風
アルコールをエネルギーとして使うとプリン体がふえます。
このプリン体はやがて尿酸となり体内に溜まります。
お酒の席でつまみになりがちなメニューの中にもプリン体を多く含む食品(レバー・いわし・白子など)があります。
飲酒の機会が増え、尿酸値が上昇すると痛風になります。
どうしても内服が多くなりがちな循環器疾患を持つ患者さん。
辞められない薬も多い中、尿酸値を下げる薬は食事療法が上手くいけば中止できます。
内服が多いことにマイナスなイメージを持っている患者さんに『この薬は頑張ればやめられますよ』と教えてあげると節酒のモチベーションがアップします。
健康習慣の継続
酔いの効果で抑制がとれます。
誰しも経験があると思いますが、普段頑張っている禁煙や食事療法の箍が外れ、ついつい羽を伸ばし過ぎてしまいがちに。
明日からの節制に繋がるためのちょっとしたご褒美になら良いのですが、苦労して続けてきた習慣を台無しにする結果になってしまうことがあります。
たまのご褒美として適量の飲酒することは節制継続のモチベーション向上へと繋がりますが、
羽目を外し過ぎて今までの努力を台無しにしてしまうほどの威力をアルコールは持っています。
特に外での飲酒や大勢での飲み会は要注意です。
節酒が続く療養指導ポイント
まずはしっかり情報収集。
飲酒のタイミング、量、種類にとどまらず楽しみにしているのか、習慣か、
一人でも飲むのか、機会飲酒か、外で飲むのか、
友人など一緒に飲む人によって飲酒量が変わるなど
なるべく詳しく聞きましょう。
体に悪影響を与えている飲酒の問題行動を突き止め、その行動が変えられるように指導を進めていきます。
休肝日を週2日にするメリット
2日間連続して休肝日を設けることでアルコール依存症の離脱症状(発汗・手足の震え・幻覚など)が出るかどうかを知ることができます。
量を減らす?回数を減らす?
量・頻度ともに節制が必要です。
一気に量も頻度も減らす目標は高すぎて、達成できずモチベ―ションを下げる結果に繋がることがあります。
患者さんの日常生活や思いなどを共有し、行動変容ができそうな方から取り掛かれると良いです。
飲酒量や飲酒日のモニタリングで悪影響を可視化する
血圧手帳などセルフモニタリングを導入している場合は飲酒日や飲酒量などを記載を提案しましょう。
飲酒がもたらすデメリット(節酒のメリット)思い浮かべ、患者さんの飲酒の習慣が与える最も大きな悪影響は何かを考えます。
一番大きく影響を与えてるデメリットがセルフモニタリングで可視化できると行動変容に繋がります。
例えば、
飲み会の翌朝はいつも血圧が20くらい高いですね。
など、血圧や体重など値に大きく変化がある箇所と、その原因となった行動(飲酒)を関連付けられるような声掛けをしましょう。
ゴールは健康と楽しみの折り合いがつけること
もう生きてる楽しみがなくなっちゃったよ。
病気になると禁止されることが多く、日々の楽しみが減ってしまったと感じる患者さんは多いです。
飲酒をご褒美として飲んでもいい日があるとその日までは頑張ろうと思えます。
辛いと感じる節制も、頑張っている効果が実感できると継続できます。
アルコールの量が減ってから中性脂肪がぐんと低くなりましたね。
節制が結果に繋がっていることを言語化してフィードバックし、頑張っていることを賞賛しましょう。
患者さん自身で節制の強弱が付けられるようになれば一安心。
体に悪影響を与えずに飲み会を楽しめたことを一緒に喜びましょう。